―もとサン教室―

  チャイムが鳴り、教室に緊張が走った。
  それに反応し、身構える数名の生徒がいた。
  彼らは懐から、小さな紙――食券を取り出し握り締めた。
  そう、彼らは小さな食堂を戦火に染める勇者達――もとサン学食部隊
  まぁ、要するに学食で昼飯を採る生徒である。(笑)

 「……と、時間だ。日直」

  教師がチョークを置き、日直に促した。

 「起立……」

  生徒達はのそのそと席から立ち上がる。
  学食組みの連中はさっと立ち上がる。

 「礼……ありがとうございました」
 『ありがとう――』

  挨拶の途中で向きをかえ。

 『――ました』

  挨拶も終らぬうちに走り出した。
  彼らはドアを蹴り開け、駆け抜けていった。

 「おいおい、けがするぞ」
 「先生―もう、行っちゃいましたよ」
 「まったく、しょうがない連中だ」

  彼らのなかに、教師の注意で止る様な奴は1人も居なかった。
  教師は呆れて溜息をついた。
  餓えた生徒達を制止させる事は誰にも出来ない。

 ―もとサン前廊下―

  もとサンの教室より少し離れた場所にミリタリー部の2人は潜んでいた。
  手には双眼鏡が握られている。

 「敵影を確認!来るぞ!!」

  ドアのガラス部分に生徒の姿を見つけ、部長が声を上げる。

 「イエッサー!」

  長沢は懐から銃――エアガンを抜き、セーフティーを外した。
  銃は改造されていて殺傷力は無いが、当たると相当に痛い。
  部の存続させる為に……馬宮を仕留める為に……。
  自分自身、馬鹿げた事だと思うが……。
  自身の安全の為に、彼らは退く訳にはいかなかった。   




死闘的学生食堂

#03 竜頭蛇尾 〜一歩進んでふりだしへ〜





 ―もとサン教室前―

 ――PM12:50:13

  教室の前のドアが勢いよく開き、男子生徒が駆け出てくる。
  もとサン学食部隊の1人だ。
  彼は席の関係で1番早く、学食に向う事ができるのだ。
  彼が教室を出た瞬間、何かに足を捕られた。

  ――プツン

  軽い抵抗を足に感じたが、そのまま彼は走って行った。
  彼の足元には切れたテグスが落ちていた。

 ――PM12:50:15

  突然、廊下に積み重ねて置かれていた小型のロッカーの1列が崩れた。
  ロッカーは事故対策で簡単に倒れる事は無い。
  ドア前のテグスが切れた事で、ミリタリー部の仕掛けた罠の一つが発動しのだ。
  4段重ねで置かれていたロッカーが、ドアから出てきた生徒に襲いかかった

 ――PM12:50:16

 「邪魔じゃ!」

  体格のいい生徒が飛び出してきた。
  彼は崩れ落ちてきたロッカーを片腕で払いのけ、走り去っていった。
  彼の名は塩野。
  もとサン学食部隊の特攻隊長だ。
  部活にこそ所属していないが、アメフト部からお誘いがかかる程の体格だ。
  そんな彼をロッカー如きが止められる訳がなかった。

 ――PM12:50:25

  塩野が吹き飛ばされロッカーは中身をばら撒きながら廊下を転がった。

  ――カチ
  ――プツン
  ――ガチャ

  その拍子に、周囲に仕掛けてあった罠が起動した。

  ドガッバガッンーーン!!

  ロッカーやその中身を巻き込み、全ての罠は停止した。

 ――PM12:50:28

  教室から出てきた生徒達は、騒然としている廊下に目もくれず学食へ走って行った。
  その中に馬宮の姿もあった

 ――PM12:50:33

  授業をサボってまで仕掛けた罠をあっさりと突破され、ミリタリー部の2人は、ただただ
  呆然と立ち尽くしていた。

 ―もとサン教室―

 「いつもの事だが、凄まじい」

  森崎雄樹と関宇宙は、呆れながら彼らを見送っていた。

 「あれ?森ちゃんは学食じゃないの?」

  宇宙は弁当組で、森崎は学食組である。
  いつもなら、森崎も学食部隊と共に走って行くはずだ。

 「ふっ……闘いに疲れたのさ」

  森崎は遠い目をしながら明後日の方向を見た。

 「なに訳のわかんないこと言ってるてんのよ」

  意味不明な森崎のリアクションにツッコミが入る。
  声のした方に宇宙達が向くと、少女が立っていた。

 「あっ、麻倉さん」
 「よぉ。まやお嬢さん」

  彼女の名前は麻倉まな。
  生徒会書記ともとサンの学級委員を兼任しており、もとサンに置いてまともな人である。

  森崎は、まなが手にしていた少し大きめの手さげに気が付いた。
  中身はお弁当と予想がつくが……何か引っかかった。

 「何?」

  彼の視線に気が付いたまなは手さげを彼から隠すように遠ざけた。
  その彼女の行動が、森崎の脳裏に一つの可能性を示した。
  彼は新しいオモチャを手にした子供の様な笑み浮かべた。

 「随分と大きな弁当ですな〜優に2人分はありそうだな」
 「何が言いたい訳?」

 「宇宙に作ってきたんだろう?」
 「なっ」

  部分部分を強調しながら、まなにだけ聴こえる様に告げた。
  まなは手さげを落としそうになったが、何とか堪えた。
  動揺したのがまるわかりだ。

 「はははっ図星か」
 「くっ」

  まやは顔を紅潮させ、手さげを掴んだ腕をぶるぶる震えてさせている。
  相当悔しいらしい。
  対する森崎は、笑を堪えきれず、床を叩きながら、かたかた笑っている
  相当ウケタらしい。

 「???」

  肝心の宇宙は状況をまったく理解していなかった。

 「この間のお礼代わりよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
 「そう言う事にしといてやるよ。宇宙、まな嬢がご馳走してくれるそうだ」
 「まぁ良く解からないけど、一緒に屋上で食べようか?」

  もとサンの教室は他のクラスと離れた校舎に在った。
  調理室や被服室などの特別な教室が入れられている校舎だ。
  一般生徒は授業以外では、ほとんど近寄らないので屋上は穴場だった。

 「晴れてるし良いわね」
 「それじゃ、桜対策の会議も兼ねて屋上に行きますか」

  そう言いながら森崎は教室の後ろのドアを開けた。
  そして、教室から足を踏み出した瞬間――

  鈍い音がした。

  その音源は森崎の頭だった。
  もっと正確に言うならば、森崎の頭に直撃した小型ロッカーだ。

 「あ!何なのよコレ?」
 「だ、大丈夫?」

    宇宙達が廊下に出ると散乱した荷物とロッカーが山の様になっていた。
  森崎は無言でロッカーを持ち上げ、もとの場所に戻した。

 「……先に行ってくれないか」

  そう呟きながら森崎は屈んで、足元に落ちていた辞書に手をかけた。
  表情は相変わらず無表情のままだ。

 「わかったけど程々にね」
 「ち、ちょっと何なのよ?」
 「……仕事だ」

  森崎は辞書を拾い立ち上がり、首だけミリタリー部の2人の方へ向けた。

 「ちょ、ちょっとヤバそうなんだけど」
 「森ちゃんのスイッチが入ったんだよ。それより、早く行こう」

  宇宙は戸惑うまやの手を引いて、その場を急いで離れた。
  ああなった森崎のヤバさをよく知っていたからだ。

 「校舎内にて、小規模な破壊活動及び容疑者を発見」

  宇宙達が去ったのを確認すると、森崎はミリタリー部の2人の方へ近づいていった。

 「校則、第5章第12項適用により、風紀維持活動を開始する」

  森崎の歩みは徐々に早くなっていく。

 「及び、風紀委員会執行法、第1章第1項、第2項、第3項適用」

  我に返った長沢が、エアガンを森崎へ向けトリガーを引く。
  エアガンからプラスチック弾から吐き出される。
  森崎は拾った辞書で、それらを防ぎ、長沢に向って辞書をブン投げた。
  辞書は長沢の顔面に突き刺さり、彼は倒れた。

 「校内に於ける闘争行為限定解除」

  部長は長沢を見捨て逃げ出したが――森崎に後ろ襟を掴まれた。

 「何処へ行く?罪人に路が残されていると思っているのか?」
 「ひぃ!!」
 「さぁ、後悔しろ……己の愚考を!」
 「やめめえめめめあめぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

  お昼の校舎に悲鳴が鳴り響いた。



  後編へ

企画/原案(主犯) バト  協力(共犯) 悪魔のパッソル
爆走書記はフィクションです。人物、組織、場所、事件等全て架空の存在です。

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